十年一剣を磨く
日本史上初のベストセラーは何かご存じだろうか。
江戸時代後期、頼山陽の「日本外記」だ。
「十年一剣を磨く」という言葉は、
武田信玄と上杉謙信の「川中島の戦い」を詠んだ頼山陽の詩の中にあり、
そこから広く知られるようになった。
長く鍛錬を積み、忍耐強く、
力を発揮する機会を待つ生き方をいう。
マルコム・グラッドウェルの本を読んでいると、
「世界レベルの技術に達するにはどんな分野でも、
一万時間の練習が必要」とある。
1万時間は、1日に3時間以上を練習に充てると、
およそ10年となる計算。
頼山陽の言葉も、あながち当て推量ではないと思った。
中国の伝統演劇である京劇にも、
「舞台の三分間を支えるのは十年の稽古」という言い方があるそうだ。
名優の評価を確固たるものにしながら、
40代半ばで歌舞伎の道に入った香川照之さんが、
著書の中で紹介していた。
芝居の稽古を始めて、その厳しさに五臓六腑をちりちりと萎縮させ、
身をすくませる思いがする。
しかし、その苦しみも、自分だけが味わえると思えば、楽しくさえある。
その言葉を励みに取り組んでいる、と。
一度決めたら貫く。
一事を貫くことで、万事に通じる力がつく。
ここに人生の妙もあろう。
一歩を踏み出す時である。