蕎麦屋と塾
私の実家の近所には
評判の蕎麦屋がある。
あまりに近くにあるのと
いつも行列ができているので
一度も食べに行ったことはなかったのだが
先日、初めて食べに行った。
その日は開店中の時間なのだけれども
誰も店の外に並んでいなかった。
初めて食べるその店の蕎麦は
とても美味しかった。
お店の人に訊いてみると
味の9割は、そば粉で決まるという。
「同じ粉でも、その日の気温や湿度によって別物になるんです」
色、香り、手触りを確かめ
「調子はどうだ?」と声を掛ける。
状態を見極め、粉に加える水の加減や、
そば生地をのばす厚さを微妙に変える。
「どれだけ良質な粉でも、
〝いつもと同じ〟と油断したら
本来の味は引き出せません」
職人は、材料の中に命を見るのだ。
塾での人間関係にも通じる話だと思った。
元気な生徒
おとなしい生徒
などなど
それぞれに傾向はあるが
例えば、明るい生徒が常に明るい気持ちでいるわけではない。
内面は分からない。
その日、子どもたちの顔を見た瞬間が勝負なのだ。
どんな子でも、毎日、微妙に様子が違うものだ。
〝家で叱られたかな〟
〝何か悩んでいるな〟と感じたら
ゆっくり話を聞くようにしている。
人は絶えず変化し、一瞬も同じではない。
人を属性で分けて済ませるのではなく
「その時の様子を見る」目を磨きたい。
相手を分かりたい、力になりたいと思いながら接する中に、
相手に合った励まし方が見えてくる。
蕎麦も同じなんだなって考えながら
絶品の味に舌鼓を打った。