叡知の輝き
ある生徒の友人は高校に行く意味が見いだせないという。
高校に行きたくないと言っているようだ。
その生徒は高校進学希望なのだが
友人に高校に行く意味をうまく伝えられなかったようだ。
ちょうどいい機会だったので話してあげた。
義務教育は中学校までだ。
中学を卒業したら、人生の選択が待っている。
大きく分けると
「学ぶ選択」と「働く選択」の2つだ。
日本国憲法に明記されているように、
日本国民は「勤労の義務」がある。
就業年齢になれば働かなければいけないのだ。
例外は「学生」だ。
だから「学ぶ」のか「働く」のか選ばなければいけない。
働く覚悟がまだできていないから
とりあえず学んでいるというモラトリアム学生もいるが
ぜいたくでもったいない話だと思う。
ユニセフ(国連児童基金)が発表した「世界子供白書」(2021年版)によると、
後期中等教育の修了率は、男子45%、女子42%となっている。
後期中等教育とは日本では高校に相当する。
学びたくても学ぶことのできない現実が
同じ世界に生きる同世代たちの多くが抱えて生きている。
そういったことに思いをはせられないようだったら
SDGsなどは絵に描いた餅にすぎない。
20世紀初頭のアメリカ南部州。
激しい人種差別の中、黒人が公共の図書館を利用するにも制限があった。
本を借りる時でさえ警察から尋問される。
ある黒人少年の話。
図書館の利用カードを、知り合いの白人に無理を言って借りた。
司書には白人の使いだと告げた。
疑う司書に、字が読めないとまで偽った。
彼は希望した2冊の本を、やっと手にすることができた。
学ぶということは、
人間の持つ、知的好奇心が湧き上がってくることからはじまる。
比べて、はるかに恵まれた環境にあるいまの日本では、
若者の「活字離れ」が言われている。
改善への対策は大事である。
が、世界には、たった1冊の本さえ手にできない子どもたちがいることを、忘れてはならない。
「きみがずっと探し求めた叡知は/いろいろな書物の中で/今 どの頁からも輝いている」
とはドイツの文豪ヘルマン・ヘッセの言。
高校で学べるということは
学びたくても学ぶことのできない世界の数多くの同級生たちのあこがれである。
彼らは、代わりに高校に通いたいと心底願っている。
人類の叡智を学べるということは、この上ない幸せなこと。
〝叡知の輝き″を発見する感動を、一人でも多くの子どもたちに実感させてあげたい。