人の心を動かすもの
本年2月、講談の真打ち昇進と同時に、
44年ぶりの大名跡を襲名した六代目神田伯山氏。
24歳で入門して13年目の快挙となった。
講談とは、高座に置かれた釈台と呼ばれる机の前に座り、
大衆に向けて読み物を読み上げる日本の伝統芸能の一つだ。
講談社の社名はこれから来ている。
氏が講談の道に進んだきっかけは、
高校生のときにラジオで偶然、講談を聞いたことだ。
高校卒業後の浪人生時代に所沢市で行われた立川談志独演会の高座を見て、
以降、談志の追っかけとなり、のちに講談師になることにした。
人生が動き出すきっかけなんてそんなものだ。
落語は一門によって覚える噺が違うが、
講談はほとんどが最初に「三方ケ原軍記」を習うという。
「頃は元亀三年壬申歳……」で始まるこの演目は、
武田信玄と徳川家康・織田信長勢との戦いを描いた軍記物だ。
冒頭から先鋒の部隊を描写する「五色備え」までの15分間は、
一句忘れても次につながらない。
氏も実際、500人の聴衆を前に絶句したことが。
苦い経験を教訓に、稽古に励んだと振り返る。
そして、どんな名人が“三方ケ原”をやろうと、
「若くてキャリアもない人間が一生懸命に、
未来の名人を目指してやっているという美しさには勝てない」と。
人の心を動かすのは、技術の巧拙以上に真剣さ――
万般に通じる事実だろう。
氏はユーチューブで講談を配信するなど、新たな取り組みにもチャレンジしている。
ご覧あれ。