カタツムリ

生徒面談をしていて、ある生徒がこういった。

 

「今から頑張ったら、〇〇高校に合格できますか？」

 

入試までに合格圏に入ることができるかどうか心配しているのだ。

 

でも、私は知っている。

 

その生徒は、勉強しようという気持ちだけは持っているのだが

 

実際は、スマホや昼寝など、勉強から逃げることばかり。

 

定期テストの前だけ一生懸命頑張っているのだ。

 

ふと、その生徒にピッタリと句がうかんできたので紹介してあげた。

 

「たゆまざる　歩みおそろし　かたつむり」

 

作者は北村西望氏。

 

氏は文学者ではなく、長崎出身の彫刻家。

 

平和祈念像の制作者だ。

 

氏は、像の制作中

 

一晩で高さ９ﾒｰﾄﾙを超す像のてっぺんまで登った蝸牛に感動し

 

先ほどの句を詠んだのだ。

 

氏が蝸牛に心打たれたのは

 

自身の人生とそれを重ね合わせたからだろう。

 

若き日の氏には建畠大夢、朝倉文夫という好敵手がいた。

 

「二人とも彫刻の天才」であり

 

展覧会の評価でも常に先を行かれた。

 

悔し涙、己の才能への不安の中で

 

氏は「自分は天才ではないのだから、

 

人が五年でやる事を、

 

自分は十年かけてでもやらねばならないのだ」と誓う。

 

この覚悟で氏は１０２年を生きた。

 

足かけ５年を経て

 

畢生の大作・平和祈念像が除幕されたのは

 

７０歳の夏だった。

 

 

 

学習も、人生も

 

それを磨き完成させゆく作業は

 

一彫り一彫り、像を形にするようなもの。

 

弛まず、あきらめず、黙々と続けていきたい。

 

面談後、スッキリした顔で帰っていったその生徒は

 

少しだけ変わった気がする。

 

それでいい。

 

カタツムリのようにいこう。