クスノキ

人生百年時代と言われているが、

 

百歳になった自分自身を想像したことがあるだろうか。

 

ぜひ想像してみてほしい。

 

どんな自分だろうか。

 

 

私が想像したのは

 

のんびりと穏やかに引退した日々を過ごしている自身の姿。

 

恐らく同じような悠々自適の姿を想像した人も多いのではないだろうか。

 

 

 

 

 

彫刻界の巨匠・平櫛田中(ひらくしでんちゅう)をご存じだろうか。

 

東京都小平市には公立の平櫛田中彫刻美術館がある。

 

入り口付近に置かれた直径約2メートル、

 

重さ5・5トンのクスノキは圧倒的な存在感がある。

107歳まで生きた田中。

 

この美術館は彼が晩年の10年間を過ごした旧宅が基になっている。

 

彼の畢生の大作といえば、現在、国立劇場に展示されている「鏡獅子」。

 

歌舞伎俳優の六代目尾上菊五郎をモデルに、

 

完成まで22年を要した、高さ2メートル余りの木造彫刻だ。

 

美術館のクスノキは、

 

これに匹敵する作品を彫るために用意した原木という。

 

この木を調達した時、田中はすでに100歳だった。

 

巨木は作品の素材という以上に、創作を通して、

 

自分自身を鍛え上げる“戦いの舞台”だったのかもしれない。

 

重ねた長い歳月を礎とし、

 

「今」に真剣勝負で臨んでいく生き方を垣間見た。

 

 

 

田中は、生前こう語った。

 

六十、七十は鼻たれ小僧、

 

男ざかりは、百から百から、わしもこれからこれから

 

 

 

人間いたずらに多事、

 

人生いたずらに年をとる、

 

いまやらねばいつできる、

 

わしがやらねばたれがやる

 

 

 

人生の道を突き進む「時」は、

 

“いつか”ではなく“今”。

 

その道を歩み抜くのは、ほかでもない“自分自身”。

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