鳴かず飛ばず
10年前に92歳で亡くなった女優の森光子さんが
初主演の舞台を踏んだのは41歳の時だった。
大女優としては、あまりに遅咲き。
鳴かず飛ばずの悔しい青年時代に負けなかったことが、
人生の大輪を咲かせた原動力になったと思うと、
「艱難(かんなん)汝(なんじ)を玉(たま)にす」と、
あらためて教えられる。
「あいつより うまいはずだが なぜ売れぬ」
森さんが
下積み時代に詠んだ句という。
不屈、自身の可能性を信じる強さこそ、
森さんの人生を支えていた。
「鳴かず飛ばず」ということばのイメージは
肯定的なものだろうか、
それとも否定的なものだろうか。
このことばは、
元来、”飛躍の時をじっと待つ”という意味である。
だから、肯定的に使われることばだ。
しかし、否定的に使われることもある。
もともと中国の故事に由来する。
中国の歴史書「史記-楚世家」に記されている。
「楚」の荘王は、
即位してから3年間、
「荘王を注意をする者は全員処刑する」と公言し、
まともに政治を行わなかった。
そんな時に、伍挙という家臣は
「丘の上で3年間鳴くことも飛ぶこともない鳥は、一体どんな鳥だと思われますか」
と荘王に対して謎かけをした。
すると荘王は
「3年も飛ばない鳥は
ひとたび飛んだら天を突くかのように高く飛び、
鳴いたら人を驚かすほどの勢いだろう」と答えたという。
このやり取りのあと、
荘王は政務に励むようになったという。
このことから
「将来の活躍に備えて行いを控えつつ、
活躍の機会を待つ様子」という意味になったといわれている。
その”時”来ることを信じ、
人に倍するような努力を持続できるか。
途中でやめてしまうか。
勝負は紙一重だ。
何があっても諦めず、
耐え忍び、
前へ進み続けたい。
人生を開く決定打は、
常に自分自身の中にあるのだから。