自分の頭で考えることの大切さ
大学生を文系・理系で分けることがある。
大まかに言うと、
全体の60%が文系、
40%が理系である。
文系の人にとって、物理や化学は縁遠い世界。
だから、もっともらしい用語で説明されると、
わからないまま信じてしまうこともあるだろう。
1997年、ネイサン・ゾナー君という
14歳の少年が書いた
「我々はどのようにしてだまされるのか」
というタイトルのレポートが
科学フェアで入賞し、
マスコミにも取り上げられて話題を呼びました。
彼はDHMOという化学物質の害を指摘し、
この物質の使用規制を求めて
周囲の50人の大人に署名を求め、
うち43名のサインを得ることに成功したのです。
彼の挙げたDHMOの危険性は、
・酸性雨の主成分であり、
温室効果を引き起こすことも知られている
・多くの場合、海難事故死者の
直接の死因となっている
・高レベルのDHMOにさらされることで
植物の成長が阻害される
・末期癌の腫瘍細胞中にも
必ず含まれている
・この物質によって
火傷のような症状が起こることがあり、
固体状態のDHMOに長時間触れていると
皮膚の大規模な損傷を起こす
・多くの金属を腐食・劣化させる
・自動車のブレーキや電気系統の
機能低下の原因ともなる
といったものです。
そしてこの危険な物質は
アメリカ中の工場で冷却・洗浄・溶剤などとして
なんの規制もなく使用・排出され、
結果として全米の湖や川、
果ては母乳や南極の氷にまで
高濃度のDHMOが検出されている
とネイサン君は訴えました。
さてあなたならこの規制に賛成し、
呼びかけに応じて署名をするでしょうか?
鋭い方ならお気づきのとおり、
DHMO( dihydrogen monoxide )は
和訳すれば一酸化二水素、
要するにただの水(H2O)です。
読み返していただければわかるとおり、
DHMOの性質について隠していることはあっても、
嘘はひとつも入っていません。
単なる水であっても、
恣意的に危なそうな事柄だけを取り出せば
いかにも危険な化学物質のように見え、
規制の対象とさえなりかねない──。
ネイサン少年の指摘はなかなかに重い意味を持っているように思えます。
もっともらしい言葉でだまされないためにはどうすればよいのでしょうか。
文系だからとか理系だからとか抜きに
自分自身でじっくりとしっかりと調べてみることです。