水底

作家・吉川英治は、小説『宮本武蔵』の中で綴った。

 

 

「波騒〔なみさい〕は世の常である。

 

 

波にまかせて、

 

 

泳ぎ上手に、

 

 

雑魚は歌い雑魚は躍る。

 

 

けれど、

 

 

誰か知ろう、

 

 

百尺下の水の心を。

 

 

水のふかさを」

 

 

 

宮本武蔵のめざす精進の果ては、

 

 

世にもてはやされることではなく、

 

 

世間に生き、

 

 

しかも、

 

 

世間の波騒を超えて

 

 

永遠を友とする境涯であったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

ニュースの見出しの材料となる出来事は

 

 

「人生の流れの表面に浮游している」ものであり、

 

 

究極において歴史をつくるものは

 

 

「水底のゆるやかな動き」である。

 

 

 

 

ニュースの見出しにおどらされるのではなく、

 

 

その「水底のゆるやかな動き」を考えられる人になりたい。

 

 

 

 

 

 

そういえば、

 

 

セミナーに参加して、

 

 

あまりにもすばらしい内容だったので、

 

 

終了後に講師の方にお話をさせてもらいに行った。

 

 

とても博識な方なので、

 

 

情報収集の秘訣についてお聞きした。

 

 

「情報の表面的なことではなく、

 

 

その背後や奥底にあることを考えるようにしている」

 

 

との答えだった。

 

 

だとすると、同じニュースを知った時に

 

 

感じることが普通の人々とは少し違うのだろう。

 

 

 

 

その方のように、

 

 

物事の本質を理解できるようになりたい。

 

 

まずは

 

 

百尺下の水の心

 

 

水のふかさを

 

 

知りたいと思うことから始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、話は変わって最近読んだ本の紹介。

戦死した若き学徒兵たちの手記。

 

自分の力ではどうにもできない戦争への参加、

 

戦時教育によって身につけた、国のために命を捧げる価値観、

 

しかし心の内から沸き起こる、生への渇望、学問への欲求、家族への愛情、などなどとの葛藤。

 

彼ら学徒兵が死と直面しつつ、思索を重ねて遺した手記である。

 

 

 

出征前には遺書を書いていた。

 

ある学徒兵が出征にあたって書いた遺書が印象に残っている。

 

「戦場に征くに当たって、別に何の感慨も起こらないものですね。

 

我ながら不思議です。

 

人間の精神というものは不思議なものだと思います。

 

父母妹らに会うのも、これっきりになるかもしれないというのに、

 

ぼたもちやおぜんざいが食べたいと思うています。

 

底知れぬのんきさが人間の精神にひそんでいるのがみょうではありませんか。

 

では皆々お元気で。」

 

 

前の記事

大きな志

次の記事

指先の油