ビタミン
小学6年生になるまで
水泳が苦手だった。
グラウンドではすぐそこの25メートルだが、
同じ距離でも水中の25メートル先のプールの向こう側は
はるか遠くに見えていた。
転機がおとずれたのは小6の夏だった。
小6のときに私は転校をした。
転校先の小学校には体育に熱心な先生がいた。
その先生を中心に
夏休みに水泳が苦手な生徒を呼んで特訓が行われた。
それまでの水泳の経験からどうせ無理だとわかっていた。
しかし呼ばれたから行くしかない
などと考えていた。
最初は思った通り失敗の連続だった。
恐怖感が募り、何度も諦めかけた。
そんな私に、その先生は粘り強く付き合ってくれた。
その先生のアドバイスはとても上手だった。
少しずつ泳げるようになっていくのが自分でも分かった。
先生が終始、繰り返していたのは「大丈夫。絶対できるよ」との言葉。
それまでの人生で決してできると思っていなかったプールの向こう側まで
泳ぎ切ったときにはぞくぞくするような感情がわいてきた。
その後、50メートルまで記録を伸ばしたところで
夏休みの水泳特訓は終了した。
新学期が始まり、プールじまいが行われたときには
その年の水泳特訓で一番成長できた児童がみんなの前で泳ぐのだが、
私はそのうちの1人に選ばれた。
あの励ましと、初めて25メートル泳げた時のよろこびが、
今も心の奥深くで 自分を支えてくれている気がする。
大阪教育大学教授の園田雅春氏は、
野菜や果物を食べて ビタミンを摂取するように、
子どもの自尊感情は、周囲から掛けられる“プラスの言葉”で
育つと説く。
このプラスの言葉を、氏は自尊感情の頭文字をとって
「ビタミンJ」と呼ぶ。
子どもは、初めから自分に自信を持っているわけではない。
「ビタミンJ」は、自分を認め、信じ、励まし続けてくれる
他者との関わりによって、時間をかけて育まれるものなのだ。
ゴールデンウィークが終われば
いよいよ本格的に学習が始まっていく。
子どもたちの挑戦を全力で励まし、
ビタミンJをたくさん与えて
いっしょに成長していきたい。