おごり

芸能界では一緒に飲食に出かけた場合、

 

1年でも芸歴が長い方がオゴるのが常であるらしい。

 

芸人はそのあたり徹底しており、

 

たとえ後輩の方が売れていても、

 

売れてない先輩が全額を払うのが常識になっているそうだ。

 

ある若手芸人数人が連れ立って飲み屋に行った。

 

みんなで飲んでいるとその同じ店の片隅にビートたけしさんがいた。

 

あまり面識はなかったのだが、

 

芸人として全員で挨拶に行った。

 

途中たけしさんが帰るときに、

 

若手芸人の勘定も全部支払ってくれた。

 

恐縮した若手芸人たちは、

 

帰り支度をしているたけしにお礼を言いに行った。

 

すると、たけしはニッコリと笑ってこういったという。

 

「いいんだよ。君たちが売れたらオイラを使ってね」

 

 

 

幕末から明治の大名人といわれた講釈師の神田伯山氏は、

 

名奉行・大岡越前の創作噺「天一坊」で人気を集めた。

 

「伯山は天一坊で蔵を建て」と川柳に詠まれるほどで、

 

80人以上の弟子がいたという。

 

ある日、外出した伯山が、お供の末弟子に言った。

 

「おい、そばを食おう」

 

ところが店に入って注文したのは、自分のそば1杯。

 

不審げな弟子に、伯山が一言。

 

「食いたかったら芸を勉強しなよ」

 

弟子は家に帰るなり、父に不満をぶつけた。

 

すると父は、師匠の家に向かって両手をつき、感謝を。

 

そして“今は一番下だが早く一人前になれ”という励ましなのだ、と。

 

心を入れかえ稽古に励んだ弟子は後年、

 

先輩たちを追い越し、2代目・神田伯山となった。

 

師の言動を恨んだままでいたら、

 

後の大成はなかったかもしれない。

 

それが父によって師の深い思いに気付かされ、

 

弟子の心は変わった。

 

出来事そのものは変わらなくても、

 

「捉え方」が変わったことで、

 

未来が開けたのである。

 

 

 

神田伯山氏の話とビートたけしさんの話は

 

正反対の話のように聞こえる。

 

しかし、その根底には

 

あたたかい励ましがある。

 

人生には、さまざまな出来事がある。

 

その一つ一つを、どう深く捉えられるか。

 

心が変われば、世界が変わる。