水
しゃく熱の砂漠を彼は歩む。
飢えと渇きにさいなまれ、一歩また一歩と。
操縦する郵便飛行機が不運にも墜落し、
彼はアフリカ・リビア砂漠の真ん中に放り出されたのだ。
西風が吹く。
19時間で人間を干からびさせる風だ。
のどが痛い。
輝く斑点が視界にちらつく。
倒れるのは、もうすぐか……。
『人間の大地』につづられる、
作家サン=テグジュペリの体験記である。
彼を救ったのは、遊牧するアラブの民であった。
出会いは奇跡といってよかった。
ふるまわれた水を、むさぼり飲む。
みるみる五体にしみわたり、
力がよみがえる。
作家は書く。
「おまえ(=水)は、この世にあるもっとも大いなる富だ」
「おまえが生命に必要なのではない。おまえは生命そのものだ」と。
一説によると、
脳の75%、
心臓の95%、
皮膚の72%が、
水で構成されている。
水を飲むと1分で脳に届き、
15~20分で皮膚の細胞にまで行き渡るという。
〝生命そのもの″と見る作家の心の、
みずみずしさよ!
炎暑の日々に思う。
今の世を生きる人々も、
子どもたちも
渇いていないか。
潤いなき世間の砂漠に、
何はなくとも
オアシスのような塾でありたいと思う。