曲がること
「曲がる」とか「曲げる」という言葉はあまり好きではなかった。
「まっすぐ」のほうが素直な感じで印象がいいと思っていた。
たしかに、
「根性が曲がっている」
「へぞ曲がり」
「背すじが曲がる」
「曲がったこと」
など、「曲がる」という言葉には悪いイメージがある。
しかし、
この木のことを知った後、「曲がる」という言葉のイメージは私の中で変化した。
このブナの木々は、根元付近の幹が、
斜面の下り方向に沿って、グニャリと大きく曲がっている。
「根曲がり」といわれる現象である。
大量の雪がのし掛かることによって起こるらしい。
普通に考えたら
何メートルもの豪雪の重みに耐えきれず
ポキっと折れてしまうはずだ。
だがブナは折れない。
雪解けをじっと待ち、
太陽に向かって上へ上へと伸びていく。
生きようとする強い意志、
圧倒的な迫力と美しさを感じた
「まっすぐ」を貫いていたら
雪の重さで折れてしまっていることだろう。
「曲がる」ことで、
困難に対して、しなやかに乗り越えている。
「曲」を「広辞苑」で引いてみると、
意味の一つに「変化のある面白み」とあった。
なるほど、
たとえば、音符が楽譜の上に一直線に並んでも、音楽にならない。
曲線を描くように並ぶと、美しいメロディーが生まれる。
根曲がりのブナも美しいメロディも
しなやかだからこそ美しい。
これって人も同じだ。
困難のない人生はない。
自身に負けず、しなやかに乗り越えてきた人こそ美しいと思う。