真珠
発明王のエジソンは、
どうしても作り出せなかったものが二つある
と対談で言った。
「一つはダイヤモンドで、いま一つは真珠です」
その対談相手だった御木本幸吉氏が、
世界で初めて真珠の養殖に成功したのは
1893年(明治26年)の7月11日。
数年の努力を一夜で水の泡にした赤潮や、
周囲の嘲笑や無理解といった幾多の苦難を乗り越え、
真珠の養殖は不可能という通説を覆した。
日頃、御木本氏は、「あなたほどの人になると、
恐いもの知らずでしょう」と言われると、
「いやいや、わしの恐いのは小学生の生徒です」
と答えるのが常だったという。
未来ある人間に無限の可能性を見いだすところに、氏の慧眼が示されている。
真珠は、アコヤ貝が侵入した異物を吐き出さず、
包み込むことで作られる。
子どもたちもまた、苦悩や苦難から逃げず、
放り出さず、それを糧として自身を磨き抜く中で、輝ける未来を築いていく。
さて、話は変わって最近読んだ本の紹介です。
https://www.amazon.co.jp/dp/B07JZH997Q/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1
2019年アメリカでいちばん売れた本で、500万部の売上というので、天邪鬼としては斜に構えていた。
そんなにすごいのか? ほんとか?
この性格が災いして、話題作ほど、大抵前半はのめりこめないでいる。
しかし、この作品ははじめから楽しむことができた。
物語の舞台はアメリカの南部、ノース・カロライナ州。
湿地帯の森にはオークやマツだけではなくパルメットヤシの木が茂り、
潟湖を取り囲んでいる。
シラサギ、オオアオサギ、ハチドリ、様々な鳥が森や潟湖を飛び交う。
ヒロインのカイアの趣味は、湿地に生息する鳥たちの羽根や卵の殻を収集し、分類することだ。
著者のディーリア・オーエンズはもともと、動物学を学んだノンフィクション・ライターで、
その分野ではベストセラーもある。
だから、自然の描写が美しい。
カイアは湿地の小屋で家族と共に暮らしていたが、
アルコール依存症の父親の虐待に耐えかねた母親、兄姉が次々と出ていき、
彼女が10歳になる頃には父も帰ってこなくなる。
ひとりだけで生きていかなければいけなくなった。
南部のプア・ホワイトの生活やメンタリティが垣間見える。
自分よりも更に貧しい人々や黒人を蔑む、保守的なアメリカのコミュニティの姿が見えてくる。
その偏見がカイアの孤独をより一層、深めていく。
タイトルである「Where the crawdads sing」(ザリガニが鳴くところ)とは、
森閑とした沼地の中でも一際静かな場所のこと。
ヒトも動物の本能で行動しているのだな、
でも人ならではの感覚も備えているのだな、
負の感情を与えてしまったら、
一生それを拭い去ることはできないのだな、
いつしか引き込まれ、
一気に読み終わった。
読後の余韻が物凄い。
おススメです。