昨日の自分を乗り越える
風の谷を自由に飛行する少女、
ほうきにまたがり品物を届ける魔女、
飛行艇を見事に操る豚……。
アニメーション作家の宮崎駿氏は
映画の中で
キャラクターをよく空に飛ばす。
自身が最も得意とするシーンの一つだ。
しかし、50代半ばで完成した「もののけ姫」では
“得意技”を封じた。
誰も飛ばない。
テーマも、かつてない壮大さ。
培ったものをすべて捨て去り
新しいことに挑戦した作品だった。
その興行は、当時の日本映画の記録を塗り替えた。
自らの可能性に懸け
新境地に挑む宮崎監督の気迫が伝わってきた。
その姿は、五輪に出場する選手にも重なって見える。
メダリストであっても
それまでの練習方法、戦い方を捨て
より高いレベルへ、新たな“自分”の完成を目指す。
成功の保証は何もなく
その中を敢えて挑んできた勇気は
時に記録以上に感動するものがある。
“きのうの自分”を、いかに乗り越えてみせるか。
一見、地道なその歩みこそ
強固な自分を築く近道である。