親孝行
ある日のことだ。
生徒と生徒の会話が耳に入ってきた。
「うちの親とお前の親を替えてもらいたいよ」
どうしたことかと訊いてみると、
自分の親は細かなことまで注意するけれど、
友人の親はそうではないからと言う。
そこで、他人の私が親心と親孝行を教えようと一寸話をしてみた。
慶応義塾大学の塾長も務めた経済学者の小泉信三は、
戦時中、出征する息子・信吉に手紙を書いた。
「僕は若し生れ替って妻を択べといわれたら、
幾度でも君のお母様を択ぶ。
同様に、若しもわが子を択ぶということが出来るものなら、
吾々二人は必ず君を択ぶ。
人の子として両親にこう言わせるより以上の孝行はない」
この文章には、
“何ものも、私たち家族の絆を断ち切ることはできない”
という愛情と信念、
そして、
“わが子として生まれてくれた”ことへの、
感謝と喜びがあふれている。
普段の日常では恥ずかしくて言えないかもしれない。
しかし、戦地に赴く息子が、生きて帰ってこれる保証はどこにもない。
無償の愛とは、親が我が子を何の見返りもなく愛することだ。
それに甘んじていてはいけない。
親が子を選べるとしたら、
必ずキミを択ぶ、
こう言わせるような子になってみよう。