忍耐力
作家の松本清張氏が、取材で海外を訪れた時のこと。
途中、目的地への飛行機が飛ばず、
連日にわたって足止めされた。
ホテルで待機の日が続く。
抱える連載が数本あるが、
手元には原稿用紙がない。
同行の編集者が機転を利かせ、
ホテルに備え付けのレター用紙に
マス目を引き、手作りの原稿用紙が完成した。
その束を手に松本氏の部屋へ。
すると氏が振り返り、
「きみ、作家の条件って、なんだと思う?」と。
編集者の「才能でしょう」との答えに氏は言った。
「ちがう。原稿用紙を置いた机の前に、
どれくらい長くすわっていられるかというその忍耐力さ」。
翌日も翌々日も、氏は部屋にこもり、じっと机に向かっていたという。
人生は予期せぬ出来事の連続ともいえる。
苦境の打開に奔走していても、
その場で足踏みをしているような、
焦燥感に駆られることもある。
しかし、どんな長編小説も一枚一枚の原稿の積み重ねであるように、
挑戦の一歩一歩が、未来を着実に開いていく。
小説家だって、小中学生だって同じだ。
悩みや苦しみにも、“負けない”と歯を食いしばって前進する“
そんな一ページを、きょうもつづり残したい。