ベッポおじいさんの教え
ドイツの作家ミヒャエル・エンデの作品『モモ』に、
道路掃除人のベッポというおじいさんが登場する。
ある日、彼がモモに、自分の仕事の話を始めた。
いわく、非常に長い道の掃除を受け持つときがある。
“とてもやりきれない”と思いつつ、せかせかと始める。
時々、顔を上げるが、ちっとも進んでいない。
心配でたまらなくなり、
ものすごい勢いで働くが、
やがて疲れ果ててしまう――ここで彼が一言。
「こういうやり方は、いかんのだ」
しばらく黙った後、彼は口を開く。
「いちどに道路ぜんぶのことを考えてはいかん、わかるかな?
つぎの一歩のことだけ、
つぎのひと呼吸のことだけ、
つぎのひと掃きのことだけを考えるんだ」
「するとたのしくなってくる。これがだいじなんだな」
先のことを思い煩って焦るより、
足元を見つめ、
「今」を大切に生きることで心は豊かになると、
エンデは訴えているのだろう。
不安の中で
最後の追い込みをしている受験生にだけでなく、
日々の忙しさの中で、
足元の幸福を見失いがちな現代人への警鐘にも思える。